藤田宏元会長メッセージ
数学の教師・教授者・教育研究者の皆様へ
数学教育学会 元会長 藤田 宏
近年ほど日本の教育、取り分け数学教育に,人びとの懸念と関心が寄せられた時期はありません。大きくは,子どもと若者に対する「こころと知能」の育みの一環として捉えられるべきこの問題ですが,学力育成の実際的側面では,数学を含む理系での困難の深刻さとそこでの教育力の衰退が各所で問題になっています。小中高における学力低下はすでに様々に指摘され論じられてきましたが,大学教育もその普及・大衆化とともに、学生の勉学に対する意欲は著しく低下し、数学の理解の劣化は目を覆いたい有様であるとの嘆きが聞こえます.教師・教授を理念的且つ実際的に支援することを含め,格別の教育努力が各所で必要とされています。
このような状況下にあってこそ,数学を学ぶ不易な価値と現代的な有用性を信じつつ,子ども・若者への愛情と責任感を新たにして,数学教育の新時代的構築に励むべきです.難病を患う病人の治療のときこそ,人間的にも専門的にも優れた医者が必要とされるのです.私ども数学教育学会は,そのような気持ちで微力をつくしています。教育再興の努力は,一人でも多くの仲間を必要とします. つきましては,御貴殿に数学教育学会に関心と激励を寄せて頂きたく,さらには,入会頂きまして、わが国の数学教育を再興すべく、仲間としてのお力添えを賜りますことをお願いしたいのです。
念のため申し述べますと、当数学教育学会は400名強の会員を擁する小さなとした学会ですが、50年ほど前に遡る歴史を有します。数学者と数学教育専門家が数学教育において協力することを旨として、当時の両方のリーダー達(数学側の中心は弥永昌吉先生,数学教育側の中心は横地清先生)によって起動されたのでした。今も当学会の大会が日本数学会の大会と同期して開催されているのはそのご縁によります。
設立以来、近代的な数学教育の旗頭である横地清先生が会長として尽力された結果として,数学教育学会の名にふさわしい学理と実践の成果をあげてきました。私が会長をお引き受けしたのは5年半前からですが、生徒の学志と能力を引き出す中等教育の初心にもどっての学力回復,また,未来の展望と現実の直視から発想される大学での教育努力にも焦点を当ててまいりました。教育に関心のある数学者,応用数理・応用数学の教授,数学を尊重する教育家,教育系学部を出られた数学教師,理学部数学科あるいは理工系諸学科を卒業された数学教師……これらのすべての皆さんになじんで頂け,お役に立てる数学教育学会であると思います。
どうか私どもの微志をご理解いただき、数学教育学会への入会を前向きにご検討下さいますようお願い申し上げます。
敬具